傾聴により生まれる“カタルシス効果”

今回はカウンセリング技法が人の心を科学する心理学とのつながりを解説します。カウンセリングの代表的な技法である“傾聴”と心理学の基本知識の一つである“カタルシス”の関係を解説します。傾聴は前回のコラムで解説した通りです。

カタルシスとは
“浄化”という意味で、抑圧された感情を言葉や行動で自由に表現することによって心理的解放感を得ることです。

カタルシスの効果とは
人は様々な事に対して、不安感、緊張、不快感といった感情を強く持つと、欲求不満の状態になります。この欲求不満の状態を解決するために、人はあらゆる反応を起こします。その反応には“合理的な反応ができる場合”“一時的に解消する反応”があります。

常に“合理的な反応(冷静に考え判断すること)”ができれば良いのですが、“一時的に解消する反応(自分にとって都合の良いように勝手な解釈をすること)”に至ることもあります。この“一時的な解消する反応”では、根本対策にはならず、再発の可能性が出てきます。そこで、カタルシスとはこのように抑圧された感情を自由に表現させることによって、心の緊張を解き、合理的な反応へと導くのです。例えば、自分ではわかっていても、思うように行動できないことは多々あります。様々な感情が冷静な判断を阻害するからです。カタルシス効果は冷静に考えられるように脳内の環境を整え、冷静さ、客観性を持てるようにするのです。

カタルシス効果を得るための具体的な方法
日常の中で周囲の人に話すことによって胸につかえていることがスッキリとし、冷静に物事に向きあるようになった経験は誰しもがあるかと思います。このように様々な不満を身の回りの人に話すことやスポーツ観戦、カラオケに行くなどもカタルシス効果を得る方法となります。カウンセリング技法では傾聴、絵画療法、グループエンカウンターなどがあります。

前回のコラムで説明しました傾聴について、自分自身“聴く”ではなく、“訊く”となってしまっていた理由を振り返りますと、問題解決のための対策を見出すこと、原因を追求することを強く求めすぎて、聞き手側の勝手な推理のもとに必要な情報を集めようとしてしまっていたのだと思います。答えや結論を自分自身で決めつけて、そこに話し手に気づかせようと無理に誘導してしまっていました。聞き手側が一人奮闘してしまい、話し手の存在を見失っていたのだと感じます。
カウンセリングにおいては基本、話し手には自己解決能力があり、聞き手はあくまでも寄り添い、支援することです。つまり聴くことそのものに効果があるのです。このことを自分自身が知った時は、目からうろこでした。また問題解決に対して話し手と聞き手(自身)、それぞれの役割分担を考えるきっかけとなりました。
“訊く”では話して手は受け身となり、問題解決も訊き手が主導します。しかし、“聴く”では話し手がカタルシスにより冷静に問題に向き合え、問題解決に対して能動的に対応することができるようになります。その結果、成功体験を得ることができるようになり、動機づけや成長につながるのです。

第一線で職場を任されている管理・監督者にとっては問題解決を急ぐがあまり、“訊”くになりがちです。日々目標に追われ、その責任を背負っている管理・監督者にとっては仕方のないところでもあります。
しかし、短期的に考えることと中長期的に考えることのバランスが大切です。短期的な問題解決による効果と中長期的に考えていく人の動機づけや人材育成をどのように配分するのか、そのために、部下にはどのように関わるのかを考えていくことが必要なのです。

次回のコラムでは、今回記載した“一時的に解消する反応”について解説を行います。このことを知ることがまた人の深層心理や行動プロセスを分析し、問題解決を容易にします。

< 2017年2月 代表取締役 内山 三朗 記 >