対策に差が出るヒューマンエラーの向き合い方⑤

前回のコラムの“文脈効果”に続き、 ヒューマンエラー発生に影響する人の特性である“記憶”と“忘却”について解説を行います。

記憶とは
記憶とは、図1に示すように、大きくは感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つに分類することができます。

図1.記憶の種類

感覚記憶とは
視覚や聴覚といった感覚器官から得た情報を数秒の間、記憶するのが“感覚記憶”です。とりあえず見るものや聞いたことなどを記憶し、特に重要でないものは、記憶から消えていきます。一般的には最大3~4秒程度の間、記憶されていると言われます。

短期記憶とは
感覚記憶よりもう少し記憶している期間が長い記憶を“短期記憶”と言います。感覚記憶の中の情報で、重要と選択されたものが短期間記憶されます。記憶される時間としては数十秒から数分と言われています。

長期記憶とは
大脳辺縁系の一部である海馬により、短期記憶された情報を長期間にわたり保持するかどうか判断されます。判断基準は「生きていく上で必要か否か」という点で厳選されます。選択されるとその情報は長期間記憶されることとなります。

そして、上記の“記憶”に加え、人の特性で欠くことのできない特性として“忘却”があります。

忘却とは
長期記憶に蓄えられた情報でさえ、永久的に記憶されるものではありません。忘却とはその長期記憶を含む、記憶の情報を失うことを言います。長期記憶として維持される割合(覚えている割合)と時間との関係を調べた有名な実験結果があります。図2の“エビングハウスの忘却曲線”です。

エビングハウスの実験からも、人は得た情報の半分は1時間も経たないうちに忘れてしまうということです。そして1日も経てば、26%程しか頭に残っていません。

図2.エビングハウスの忘却曲線

ヒューマンエラー発生への影響について
新しい事を記憶したり、過去の記憶を基に業務を進めるなど、仕事を進める上で人の“記憶”という人の能力を欠くことはできません。しかし、忘却曲線からもわかるように、人が記憶できる期間や量にはかなりの制限があります。“個人”の能力ではなく、“人”の能力はこの程度のものとして理解しておくことは、ヒューマンエラー対策には非常に重要なことです。

ここで、“記憶”や“忘却”がヒューマンエラー発生に影響する場合を挙げてみますと、次の2つの場合が考えられます。
①本来、記憶しておくべき事が時間経過とともに自然と消失してしまった場合
②過去の記憶と新しい記憶が互いに干渉し合い記憶したこと、記憶することが妨害される場合

そして、特に①の『時間経過とともに自然と消滅してしまう場合』について、記憶の自然消滅を阻止するための一つの方法として“復習”を行うことがあげられます。そしてその復習を行うタイミングは、記憶した後すぐに行うことが効果的です。それは忘却曲線を見てわかるように、忘却は記憶した直後から急激に進むことと、その復習を行う労力が少なくて済むことにあります(図3.復習の実施による忘却曲線の変化)。忘却には再認可能忘却(すぐに思い出せる状態)と完全忘却(完全に忘れてしまっている状態)があり、例え、1週間後と1ヵ月後では覚えている量はともに20%前半ですが、その記憶の鮮明さには違いがあります。つまり、早いタイミングで復習を行へば行うほど、効率良く記憶することができます。この点を考慮し、業務や作業に慣れていない人には復習を促進することが必要です。そのためには、復習を行うための時間を設けるなどの環境作りやその他の関わりが必要となります。

図3.復習の実施による忘却曲線の変化

“記憶”や“忘却”に関するヒューマンエラー対策については、まずはどれだけの情報量を今現在、人の能力に委ねているのかを組織内で議論してみることをお勧めします。人の記憶に委ねる範囲や内容、業務を行う人の経験年数、業務の発生頻度(反復する頻度)等の実態を把握し、その対策(標準化)を考えていくことが必要です。

以上これまで6回に分けて、ヒューマンエラーについて解説してきました。まだまだ解説しきれていないことが多々ありますが、ヒューマンエラー対策については一度、この回で締めくくりたいと思います。

更にヒューマンエラー対策に関心のある方は、弊社のヒューマンエラー対策研修も、ご活用ください。これまでのコラムでは掲載できていない内容も含め、より体系立てた内容の講義や実践的なワークを基にヒューマンエラー対策を学べるように企画されています。

< 2017年7月 代表取締役 内山 三朗 記 >

上記コラムに関連する研修<研修パンフレット>

研修名:結果につながるヒューマンエラー対策