問題行動として現れる適応機制”について

前回のコラムの一部繰り返しになりますが、人は不安感、緊張、不快感といった感情を強く持つと、欲求不満の状態になります。この時の反応として“合理的な反応”ができる場合と“一時的に解消する反応”が見受けられます。常に“合理的な反応(冷静に考え判断すること)”ができれば良いのですが、“一時的に解消する反応(自分にとって都合の良いように勝手な解釈をすること)”に至ることは多々あります。そしてこの “一時的に解消する反応”を心理学では“適応機制”と呼びます。この“適応機制”を更に知ることが、人の深層心理やその心理の結果として現れる行動の真意を知るカギとなります。今回のコラムではこの“適応機制”について解説を行います。

4つの適応機制について
適応機制は、“攻撃機制”“防衛機制”“逃避機制”“抑圧機制”の4種類に分類でき、それぞれの内容は下記の通りです。

攻撃機制
欲求不満や葛藤の状態に陥ったとき、妨害物や他人に対して怒りを爆発させ、攻撃的、破壊的な行動を示すことがある。行動を及ぼしても、結果的には解決につながらない。

防衛機制
直接的に葛藤の解決や欲求不満の克服が出来ない場合に、他の間接的あるいは置換的な方法によってその場での解決を図る。代償(代わりのもので満足する)、補償(弱点が補えるような行動をとる)、同一視(他人と同じように考え、感じ、行動する)、合理化(もっともらしい理由をあげて正当化する)、投射(自分の欠点や失敗の責任を他人に移す)などがある。

逃避機制
欲求不満の状態から逃れて、自分を守ろうとする消極的な行動をとる。退避(他の人間から孤立)、現実からの逃避(関係のない他の行動に専念する)、病気への逃避(病気になって困難状態から逃避する)、空想への逃避(想像の世界で満足する)、退行(より未熟な行動をとる)など。

抑圧機制
社会的に不適切とされる欲求や考えが、自分の意識にのぼらないようにして心理的安定を保つ。抑圧(欲求のことを夢で見たり、会話の中で言い損ねたり)、反動形成(逆の行動をとる)などがある。

適応機制が働く時の重要なポイント
重要なポイントは、欲求不満や葛藤による心理的な緊張から、心理的安定を維持するための行動(適応機制)が“無意識”に働くことです。
よく職場で見受けられる「問題の発生要因をすぐに他責にしてしまう」、「問題に向き合わず、すぐに言い訳をしてしまう」、「管理・監督者が本来の役割をそっちのけで、すぐに現場作業や業務に専念してしまう」というのも一種の適応機制の可能性があります。適応機制が働いているからこそ、ストレスが軽減できたり、回避できたりすることにより、メンタル面での大きな問題になることなく、現状が維持できているのかもしれません。
本人の意思とは別に“無意識”に適応機制が働いているため、「他人のせいにする」や「本来の役割を果たさずに逃避してしまう」といった行動やその思考そのものを責めても、問題解決には至りません。責めること自体がまた別の適応機制を働かせ、状況は更に悪化するでしょう。

何が不安、緊張、不快を感じさせているのか、その原因は何なのか?対策を打つことを急がないように、そして問題を決めつけず、実態を把握することが大切です。そしてそれに対して本人がどのように感じているのかを共感することに注力し、本人がその問題に対して何の歪曲や否認することなく向き合えるように関わることが大切です。傾聴による関わりが問題の解決を促すでしょう。そしてこれらのプロセスを通して、人は成長します。行動の結果だけを評価し、是正するだけでは人の育成とは呼べないでしょう。

今回のコラムでは、無意識のうちに機制が働くことについて記載しました。その中で自身が自覚することや、自覚できるように関わることの重要性を述べて参りました。次回は『企業活動で活かされるカウンセリング技術』の最終回(第5回)として、この“自覚できるように”関わることについて解説します。

< 2017年3月 代表取締役 内山 三朗 記 >

上記コラムに関連する研修<研修パンフレット>

研修名:職場の良好な人間関係構築に向けた コミュニケーションの活性化<職場の“生産性向上”のきっかけ作り>